中国が生み出したモンスター、巨嬰と巨嬰症【中国コラム】

現代中国の病気巨嬰大きな赤ちゃん中国情勢

「近ごろ都に流行るもの…」

というのは、日本史に残る二条河原の落書だが、

「近ごろ中国チャイナに流行るもの…」

と言えば、躺平タンピン(無気力)、潤学ルンシュエ(海外逃亡の模索)、そして今回の主役、「巨嬰症」である。

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一人っ子政策と小皇帝

中国の一人っ子政策の宣伝
「計画的な子供作りは皆の責任である」と書かれた、一人っ子政策の宣伝

1979年、昭和54年に中国で始まったのが、いわゆる「一人っ子政策」。
周知のとおり、子供は一人までとして二人目からは罰金など厳しい出産制限が設けられた。実際は、農村は2〜3人までOKだったり、一人目が女児なら二人目は産んでも良い(地方による)、少数民族や外国人と結婚した女性は除外だったりしたのだが(だから、外国人と結婚しようとする女が増えた)、とにかく一人っ子に生まれた子供は、当然の如く溺愛された。

その結果、非常にわがままな子供が産まれた。彼らを世は小さな皇帝、「小皇帝シァオフアンディー」と呼んだ。

この言葉、学校の授業で聞いたことがある読者もいるかもしれない。かく言う筆者も、中学生の時の副読本に書いていた記憶があり、「小皇帝」という強烈な語彙だけが頭の中に残った。
そして、こんな言葉がある世界とは無縁だろう…当時はそう思っていた。

そして数年後、事もあろうにその中国に留学してしまった私。そんな留学中のことだった。

中国女
中国女

ちょっと!聞いて下さい!

当時、私は大学の日本語学科の女の子に日本語を教えて…というより彼女らの日本語学習向上のダシ・・になっていたのだが、その彼女らが半泣きな顔で私の部屋へやって来たのである。
何を訴えてきたのか。

彼女らは大学3回生だったのだが、今年入ってきた新入生が「とんでもない化け物」だというのである。
寮の掃除の時間になると掃除を催促すると、掃除の仕方を知らない。聞くと、家でママかお手伝いが全部やってやってくれていたので、自分で掃除というのをしたことがないと。
しかも、それでもさせようとすると、駄々をこねて暴れ出すというのである。

既存中国人が「化け物」とのたまうのだから、これは未知の化け物だな…まがうことなき私の本音だった。

そう、彼らは一人っ子政策第一期生だったのである。これが、私と「小皇帝」との出会いであった。

中国女
中国女

同じ中国人とは思えません…

さすがの彼女らも、リアル特級呪霊との遭遇は「街でアンケート取られたくらいのハプニング」とはいかなかったようだ。

それから四半世紀以上の時が経った。一人っ子政策も何十年も行われ、「化け物」と言われた一人っ子世代一期生も40歳を越えた。「小皇帝」もすっかり大人になったのである。

大人になったのだから、「小皇帝」時代のわがまま三昧も落ち着いたことだろう…

いや、不幸なことに、彼らはそのまま大人になってしまったのである。しかも、より「退化」して。

そう、今回の主役の「巨嬰」の爆誕である。

小皇帝から巨嬰へ…その恐るべき実態

中国の巨嬰と巨嬰症
イメージ画像ですw

「巨嬰」とは大きな赤ん坊の意味で、身体は大人だが頭は子供どころか赤ちゃん並みという、現代中国を表す病癖の一つとなっている。

中国のある作家は、ある本の中でこう述べている。

「中国人の精神年齢は1歳にも満たない。
自分の老いを当然と考え、大人になることを拒む中国の巨大な赤ん坊が多すぎる。

肉体年齢はすでに大人だが、精神年齢はまだ赤ん坊のままだ。

彼らはいつも親や社会に自分の要求を求め、他人の気持ちを考えず、常に自己中心的である。ひとたび要求が満たされないと、離乳していない赤ん坊のように、はしゃいだり泣いたりする。

作家 呉志鴻
中国の巨嬰

例えるなら、『千と千尋の神隠し』に出てくるこのわがままな赤ちゃん、「坊」である。中国ネットでも中国にはびこる「巨嬰」とこれを重ねる人が多いようで、中国の検索サイトで画像検索するとこれが結構出てくる。

「巨嬰」の大きな特徴は3つある。

①他者に対する極端な依存心

②極度のわがまま。

③パラノイア

出典:https://www.toutiao.com/article/7119296866407268904/

とにかく極端な自己中でわがまま、自分の要求が通らないと暴言を吐き、暴れ、最後は泣きわめく。その姿、まるで「巨大な赤ん坊」であることから、「巨嬰」という言葉は中国社会に広まった。

注目すべきは、③にある「パラノイア」である。

パラノイアは「妄想症」ともいい、何かしらの特定の妄想をもっている以外はなんの異常もみられない状態をいう1。また、「妄想性パーソナリティ障害」と呼ばれることもある。
つまり、地雷に触れてしまう以外は至って普通の人だが、それを踏んでしまうとその「妄想」が顔をもたげてしまう。そして、自分は何かの攻撃を受けているという被害妄想が強いことが多い。

パラノイア持ちで多いのは、「敵意帰属バイアス」持ちも多いということである。
敵意帰属バイアスとは、言ってしまえば周りが敵に見えてしまう思考の偏りで、被害妄想も重なり「敵」に対して攻撃的な行動を取ることが多い。

まずは、これをよく覚えておいて欲しい。

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「巨嬰」という言葉は、2016年に中国で発行されたある本がきっかけである。

巨嬰国分

武志紅という心理学者が書いた『巨嬰国』という本で、一人っ子政策により現代中国人がいかに「図体だけデカい赤ちゃん」と化したか、痛烈な皮肉を込めて記している。

筆者が元々売れっ子作家だったこともあり、本は瞬く間に売れベストセラーになった。

この本の冒頭は、こう始まっている。

「国民のほとんどが巨大な赤ん坊であり、そのような国は巨大な赤ん坊の国であることは疑いの余地がない」

『巨嬰国』より。原文は中国語。翻訳は台湾史.jp

が、内容があまりに正鵠を得てしまったのか、当局の逆鱗に触れてしまい発売半年くらいで発禁。
だが、上海の雑誌が選考する2018年の流行語に選ばれたことから、多くの中国人が「巨嬰症」に何かしらの感覚を持っていたことだろう。

『巨嬰国』の著者も、発禁前のインタビューで今の中国の若い世代(10~40代前半)のほとんど、自分の感覚では9割は「巨嬰」だと断言している。なお、武氏は上述した「日本語学科の女の子」より少し年上のほぼ同世代である。
9割はさすがに「白髪三千丈」ばりの誇張だろうが、そう思いたくなるほど中国社会は右も左も「巨嬰」だらけということだということだろう。

なお、中国では発禁となり入手不可となったこの本だが、中国ではヤミで出回っているらしく、日本での中国書取り扱い店では現在でも原本が販売されているところもある。神田神保町の東○書店あたりに行けば、本棚にしれっと並んでいるかもしれない!?

Amazonでも売られているのだが、プレミアがつきすぎたかとんでもない値段がつけられている…。

次は、「巨嬰」たちが起こした実際の事件簿である。

  1. 時事通信家庭の医学より
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