旧制台北高等学校 序章-旧制高校とは

台湾史
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ストームとバンカラ

高校生などの10代前半は、有り余るエネルギーがつい暴走してハメを外してしまうことがあるが、同じ時期の青春を過ごしていた旧制高校生も同じこと。

旧制高校にはいろいろな名物行事が存在していたが、その中でも有名なのが「ストーム」。ストームとは英語の嵐(Storm)のことで、簡単に言うと若さに任せて嵐のように暴れまくること。「新入生歓迎ストーム」「運動会打ち上げストーム」「試合に勝った記念ストーム」などなど、何かと理由をつけては「ストーム」する。旧制高校生をストームなしで語ることは不可能である。

 

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(『白線帽の青春』より)

寮で裸になりストームしている学生たち。暴れる場所も、暴れる規模も若さゆえに暴走することが多く、「街頭ストーム」となると街に繰り出し町中で大暴れ。

 

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 (『白線帽の青春』より)

富山高等学校創立10周年記念ストーム(昭和前期)の写真だが、このときは高校生全員が校歌や寮歌を歌いながら町の真ん中で大暴れ。電車を壊されたらたまらんと、ストームが過ぎ去るまで市電が臨時運休したほどでだった。

 

また、こんなストームもあった。島根県の松江を修学旅行で訪れていた第六高等学校1の学生が松江高等学校2の学生と合流、松江の町に2つの高校合同の「大ストーム」が。

勢いづいた学生たちは交番を襲撃し警察官の静止も完全無視。警察が激怒し法に基づき逮捕しようと高校に乱入したが、学校と町が学生を徹底的に庇って警察が折れ、おとがめなしに。

学生たちのストームで大暴れされた町も、ガラスを割られたり食い逃げされたりと迷惑千万。が、次の日にきちんとガラス代や食事代を弁償に来たりするかわいい面もあり、学生さんやから仕方ないなという「のどかさ」と「おおらかさ」と、将来のエリートが約束された人への敬意が当時はあった。もし今、同じ事をすれば、SNSで炎上不可避どころか警察が出動して現行犯逮捕であろう。

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旧制高校生とバンカラ

旧制高校生を語るもう一つのキーワードが、「バンカラ」。「蛮カラ」とも書く。

「ハイカラ」という言葉がある。明治時代~大正時代にかけて大流行した言葉で、既に日常会話では使われないものの存在感はまだまだ高い言葉である。

最初は「西洋かぶれ」と良い意味では使われなかったそうだが、次第に西洋式の上品な振る舞いをする人として意味が変化していった。「ハイカラ」は元々男性を指していたのだが、次第に女性も指すようになり、NHKの連続テレビ小説の『ハイカラさん』やマンガの『はいからさんが通る』の影響で完全に女性を指す言葉に固定された。

なお、「ハイカラ」という言葉は台湾に残っている。ただし、意味が転じて「七三分け」となっているそうだが。

「バンカラ」は、この「ハイカラ」の対義語、「ハイカラ」とは逆の人という意味として生まれた。

旧制高校生の服装を指す言葉として、「弊衣破帽」(へいいはぼう)というものがあった。

私が百万言を費やすより、以下の説明がしっくりくる。

ぼさぼさに伸びた髪、破れた古い学生服、高校の象徴である二本の白線入り帽子といったスタイルで、帽子は穴があいて髪の毛が見えている。肩に黒いマントをひっかけ、足には幅広の鼻緒がついた高下駄を履き、腰には汚れた手ぬぐいをだらりと提げて、ステッキをついていた。これが高校生の流行ファッションで、このだらしない恰好は、戦国時代の浪人を思わせ、また第二次世界大戦後のヒッピーのようでもある。

(國立臺灣師範大學HP内台北高等学校特別ページ:『「弊衣破帽」の選ばれし者たち』より)

台湾師範大学は「戦国時代の浪人」「ヒッピー」を連想したようだが、私が連想したのは日本の中世、南北朝時代に存在した婆娑羅ばさらである。華美で奇異な服装と言動を好んだ武士のことだが、旧制高校生の「バンカラ」はさながら近代に突然あらわれた知の婆娑羅たちであった。

旧制高校生の格好を文字たけで脳のCPUの想像力を働かせてみると、あるアニメの登場人物が脳裏をよぎった。

 

ゴリライモ

 

『ど根性ガエル』のゴリライモである。

ボロボロの学生帽にマント代わりの学生服。そして下駄履き。どこからどう見てもバンカラの旧制高校生。『ど根性ガエル』が少年ジャンプに連載されていたのは昭和40年代。旧制高校は既に消えても、作者自身おそらく高校生の記憶は残っていたのかもしれない。もしかして、旧制高校生のバンカラに憧れそれをゴリライモという人物に投影させたのかもしれない。筆者の想像はふくらむばかりである。

 

旧制府立浪速高校の学生。夏

大阪府立浪速高校(今の阪大)の学生である。夏服なので季節は夏、マントは季節外れか着ていない。が、高下駄と手ぬぐいという当時の高校生の必須アイテムは欠かしていない。

 

旧制台北高校生の制服

こちらは今回の本題である台北高校の学生。

女学生が「ハイカラさん」なら、旧制高校生は言うなれば「バンカラさん」。今でも思春期の学生はどこか時代の常識と外れたことをしたがる傾向があるが、旧制高校生の年頃もそれを「バンカラ」という形で誇示したかったのだろうか。

旧制高校についてもっと細かいことを知りたい人は、以下の本がかなり詳しいのでおすすめする。

 

この旧制高校の基本を頭にたたき込んだところで、次章は台北高等学校の歴史を見ていくとする。

続きはこちら!⇒旧制台北高等学校-前編

  1. 現在の岡山大学。キャンバスは県立朝日高校。
  2. 現島根大学

コメント

  1. 台湾好き より:

    興味深い記事をありがとうございます。

    師大の Normal は、英語よりフランスの E’cole normale 的な
    感じで付けた、と伺ったことがあります。

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