中国には言論の自由がない。それはいちいち私が説明することもない、有名な話である。
しかし、中国人、またはハニートラップにでもかかったかの如き自称「中国通」は、顔を真っ赤にして反論する。
いや、中国憲法には言論の自由が保証されている!
言論の自由がある。だから「ない」というのはウソだ。
というロジックになるのだが、それはまんざらウソではない。
・言論の自由(35条)
・信教の自由(36条)
・住居の不可侵(39条)
など、いわゆる自由民主主義の国々の基本的人権と同じことが、憲法には記されている。
しかし、彼らは確信犯的にとても重要なことを隠している。
憲法の序文には、こう書かれている。
「中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の指導に従うものとする」
日本などは憲法が法律の最高に位置するので、中国も憲法が最高の位置にあると認識する。いちおう、中国憲法も表向きはそうなっている。そう、表向きは。
しかし、序文にサラリと「中国共産党の指導に従う」と書かれている。つまり、「憲法<<<共産党」というわけである。
これはどういうことなのだろうか。要は、上に書いている人民の権利も、あらゆる法律も、共産党のご機嫌次第でチャラにしまっせーということを書いているというわけである。
もっとえげつない言葉で書くと、
人民が生きる死ぬかなんて全部俺様のご機嫌次第。共産党に逆らったらこの世から登録抹消するよ。
と憲法に書いているようなもの。おそロシア・・・あ、国が違った。
西朝鮮
生殺与奪の権を共産党に握られている人民の間で、ある言葉が流行っている。
それは西朝鮮。
「西朝鮮」の朝鮮とは北朝鮮のこと。その西にあるものとは、バカでかい中国。
これでおわかりであろう、「西朝鮮」とは中国のことである。
中国人民は、自由にものが言えない、政治批判できない、政治への参加ができない、自分たちの意見が政治に反映されないなど、様々な不満を抱えている。
中国では人民による暴動・騒動の数が年間18万件とも20万件とも、人によっては30万件以上と言われている。が、これはあくまで「表に出た」だけ。実際はもっと多いとも言われている。本当の数字は、誰にもわからない…これが中国の本当の恐ろしさである。
一昨年、中国は国家主席自ら軍を削減すると表明した。
中国の言うことを真に受ける頭がおめでたいマジメな人たちは、中国も国際社会に合わせたか、さすがは大国の貫禄!などと寝言…失礼、褒めちぎっていましたが、じゃあその30万人はどこへ行くの?ということを考えていないようだ。
ただでさえ失業率10%以上(あくまで推定)と言われているのに、それ以上「失業者」を増やす気か?と。
本当に削減したとしても、その「再就職先」は武装警察(以下武警)だろうと私は推察している。
中国には、ややこしいことに警察が2種類存在している。「公安(警察)」と「武警」。中国に住んでいる人でも、この2つの違いが曖昧で区別がつかない人もいるが、要は
公安(警察):ただの警察
武警:準軍隊
武警は、タテマエは国境警備(密入国・出国者取り締まり)である。が、そんなものは中国お得意の羊頭狗肉。かのソ連のKGBも表向きは国境警備隊だった歴史の実例もあることだし。
現実は、1989年の天安門事件で軍が直接人民に牙を向け、国際社会から総叩きされた反省から生まれたもの。軍隊じゃダメなら警察が人民に銃を向けようというもの。反省するのは良いのだが、ベクトルが逆向きではなかろうか。
憲兵にシステムが似ているが、取締対象がダイレクトに人民であることが憲兵とは全く違うところにつき、憲兵でもない。
人民が社会不満でデモを起こすとしよう。するとデモを「暴動」とみなした武警がどこからか現れる。パトカーなんて生やさしいものではない。来るのは装甲車。さすがに戦車は持っていないようだが。
武警が来ても抵抗するようであれば、ゴム弾や放水攻撃。それでも怯まなければ、最後は実弾攻撃。
個人的には、去年7月からの「香港警察」には、そういう「暴徒」の扱いに慣れた武警が少なからず紛れているというのが持論だが、あれこそ武警の本領発揮なのである。
ネットで書き込みをしても、最初は削除くらいで済まされる。が、続けていると深夜に突然家のドアをノックする音が…。それ以来、彼の姿を見た者はいない…となりかねない。そんなバカなと言う人は、黙って戦後台湾史を勉強するが良い。
表のキラキラ中国しか見ていないと、人民の政府に対する不満は見られない。満足してるのだなと思いがちだが、その底の部分ではかなり鬱憤が溜まっている。人民は基本が人間不信、赤の他人には絶対に本音は漏らさない。その他人が政府のスパイだったらどうするのか?お金目当てに密告されたらどうするのか?
ネットではさておき、特に政治的に際どい発言は、こいつは絶対的に信用できると認定されるほど仲良くならないと話してくれないことが多い。テレビのインタビューくらいで話す内容は、嘘とは言わないが、愛想笑いならぬ「愛想話」程度である。
言いたいことを自由に話せない。行動できない。
お上に直接抗議しようものなら、返事が実弾のこともおかしくない。
こんな社会って…
北朝鮮と同じじゃねーか!!
そんな魂の叫びから生まれた自虐が、「西朝鮮」なのである。
日本のネット上でも、発言のレベルが韓国・朝鮮並に劣化した中国を「大朝鮮」と揶揄することがある。が、「西朝鮮」はそれとは少しニュアンスが違う。
一つは、「西朝鮮」は政治的自由がない自らの境遇を嗤う自虐ネタということ。もう一つは、直接政府に文句が言えない人民の、せめてもの抵抗だということ。
「我が国は」から始まる政治批判は、ネット上ならすぐ削除されるものの、「西朝鮮」という架空の国をネット上で創造しその国を批判するのであれば、お上を批判したことにならない。そういう苦肉の策でもあるのかもしれない。
「上に政策あれば、下に対策あり」
そんな言葉が、昔々から中国の人民社会に語り継がれている。どこかで聞いたことがある人もいるかと思う。人民もあれこれと抵抗しているのだが、「西朝鮮」もそんな中から生まれた、夏目漱石のいうやわらかい武器なのかもしれない。