林昶佐(フレディ・リム)の見る新しい日台関係

林昶佐freddy台湾情勢コラム

先日、こんなコラムを見た。

フレディ・リムこと林昶佐立法院議員が投稿したコラムである。
林昶佐立法院議員は、元ロックバンドのボーカルから政界へ進出した異色の議員と共に、台湾政界の若手のリーダー格として、台湾では知らない人はいないというほど有名な人物である。現代台湾情勢や政治に興味がある人は、彼の言動を見逃せない。

コラム内には、日本でも注目度が高くなったオードリー・タン(唐鳳)氏との意外な接点にも触れられているが、日本語のコラムだけに全体的に日本との関係について注目していきたい。

林氏は、他の台湾人の例に漏れず、幼少期から日本と接点があった。テレビ番組を通し、我々と同じ時代に、同じように泣き笑っていた世代でもある。

去年、惜しくも志村けんが亡くなったが、彼はFacebookにこんな文章を寄せている。

彼も大多数の日本人と同じように、志村けんのギャグに笑っていたのである。

コラムの彼の言葉の端々からにじみ出てくるものは、日本を重要なパートナーとして見なしていること。一個人としても、そして政治家としても。
台湾は長年、日本を「師匠」としてその後ろ姿を追ってきた。しかし、後ろからの熱いまなざしに気づいた日本人は、ほんのごく少数だった。日本人は別の方向を見続けていたのである。それにようやく気づいたのが、つい最近のことである。
その間に、台湾は着実に実力を蓄えてきた。中国の圧力を常に受けながら、2014年の「ひまわり運動」のように、何度も危機を迎えながらも、中国何する者ぞとそのプレッシャーを跳ね返してきた。

しかし、決して大きな身体ではない。赤色超巨星のような中国の圧力に単独で支えるのは非常に難しい。
だから米国に頼らざるを得ない部分もあるが、台湾がもう一つ頼りにしているのは、ずっと後ろ姿を追ってきた「兄貴」の日本である。

日本と台湾との差は、細かい部分を見ていけばキリがないが、生活面ではほとんど差がなくなった。「兄貴」に追いついたのである。

「何でも日本から学ぶというより、物事によっては自分たちで解決しなければならない、今の世代には、そういう考え方が浸透しています」

武道の言葉で「守・破・離」というものがある。最初は師から愚直に学び、師に倣う。それが「守」。次に師から学んだ基本から自分なりの(スタイル)を作っていく。それが「破」。最後は師から独立して己の型を極めていく。これが「離」である。
台湾は長年積み重ねてきた「守」から、「破」に入ったのである。喜ばしいことではないかと思う。

しかし、Twitterのタイムラインを見ていると、素直に喜べない人もいるようだ。

「日本人の李総統への礼の尽くし方や著書の引用を見るたびに、私は日本人が失ったものを補っているように感じるのです。戦後の日本人は、戦争の負い目もあって、内向きだったと思います。アジアで担うべきリーダーシップや負うべき責任について避けてきた。例えば地域の安定について、自分たちの発した言葉が、隣国からどのように取られてしまうのか、すごく気にしていた。いつも慎重で、保守的」

私から見れば、自分に自信がなく、劣等感に苛まれている日本人の姿が見える。
林氏は、置かれた状況には同情しつつも、自分の殻から抜け出せない日本に少々苛立ちを感じていたのかもしれない。自信がないものから生まれるのは、劣等感である。

台湾が日本で注目され、台湾好きが増えたのは確かである。台湾ウォッチャーとして分母が増えるのはありがたいが、中には、
「『親日』の台湾が好きである」
という人もいる。しかし、考えてほしい。「『親日』の台湾」が好きなら、「『反日』の台湾」は嫌いなのか。敢えてストレートに言えば、自分の劣等感を台湾に対する優越感に置き換えてはいないだろうか。
他人と比較ばかりし、上か下かでしか判断できない人は、無意識的な劣等感を抱えている。台湾に限らず、物事を「上か下か」でしか判断することができないのである。また、劣等感ゆえに承認欲求も強く、いつまでも「日本好き好き」という存在にこだわる。劣等感は跳ね返りで優越感となるが、チヤホヤされることで劣等感を優越感に変えたいだけであろう。
すべては自分の心の問題であり、表に出てくる感情はその投影に過ぎない。林氏は、もしかしてその劣等感を感じ、「保守的」と述べているのかもしれない。

師弟の関係からパートナーへ。日台関係は縦の関係から横の関係になっている。友人として一緒に歩んでいく時代が来た。
林氏の言葉は、現代の台湾の若者の最小公倍数でもある。台湾の若者はこう思っている、という代表でもある。
日台関係は、「守」から「破」に入ったのである。

しかし、己の劣等感ゆえにいつまでも師弟関係、いや上下関係にしがみつき、「保守的」になるのはもうやめた方が良い。「台湾好き」というならば、その観念を「アップグレード」すべきは我々の方であろう。
台湾が新しい日台関係を求めているのに、我々は過去にこだわり変化を恐れてはいまいか。新しい日台関係を、これから日本と台湾で考え、造り上げていけば良い。林氏は、台湾は、それを望んでいるのである。

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