中国はなぜこんなに強硬なのか?内部を知れば納得、その3つの理由【中国コラム】

中国国旗中国情勢
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理由2 「正統性」の新たな確立

中国歴代王朝の正統性万里の長城

これは歴史的な話である。

「正統性」とは何か。これは中国の伝統的な概念であり、日本語で説明するのは少し骨が折れる。

中国の統治には「正統性」が必要である。

「正統性」が保てないとなると、「徳」を失った君主は天からの支持を失い、新しく天からの支持を得た「有徳」の誰かに征伐される。これを「易姓革命」と呼ぶ。

中華人民共和国は、時期によって己が存在する「正統性」を変化させてきた。

建国当初は、「共産主義・社会主義」による人民(特に農民)のためのユートピア建設で、何億もの人民が同じ夢を見ながら新国家建設に尽力した。

しかし、それも反右派闘争や大躍進、文化大革命などの政治闘争によって国は壊滅状態に陥り、その夢も儚く消えた。完全に潰えたのは、1989年の天安門事件と言ってよい。

次に打ち立てたのが「改革開放」「経済的な豊かさ」である。
新しく指導者となった鄧小平は、事実上の内戦でボロボロになった国内を立て直す方法を考えた。それが金。キンではなく、カネである。

中国人はもともと、金への執着が強い。金のためには何でもやる性質がある。鄧はそれを利用した。金をエンジンにして経済を発展させようと。

結果は、天安門事件後でいったんはストップしたが、その後は歴史が証明するように大成功を収めた。それが江沢民、そして胡錦濤へと続いた。

鄧小平のこの功績は大きい。そういう意味では、彼は中国史に残る偉人である。
しかし彼は、大きな、現在の中国情勢に響く非常に大きな失敗を一つ冒していた。
経済発展というアクセルを作ったのは良い。しかし、「ブレーキ」を付け忘れたのである。

その結果、14億総金かねカネの世の中となり、倫理観もカネをいくら持っているかが基準となった。ブレーキのない暴走機関車と化したのである。
「豊かになったもの勝ち」の結果、金を稼ぐためには何でもありという世の中になり、どうしようもないほどに貧富の差が拡大した。
結果、「持たざる者」の不満が拡大した。

そこで訪れたのが、経済の停滞である。
経済に明るい人に言わせれば、中国経済は2015年で株価暴落(株バブル崩壊)したので、2022〜3年の不動産バブル崩壊は目に見えていた、バブル崩壊するかしないかの問題ではない、バブルが「いつ弾けるのか」だけだったそうだが、経済という「正統性」では国を保てないとみたか、習近平総書記はある方面に舵を切った。

「偉大なる中国の再興」

中国は5000年(日本では『中国四千年』だが、本場では『五千年』)の悠久の歴史を持つ、世界一偉大な国である。そんな偉大な大地を、共産党は君たち人民を守っているのである。
というロジックに切り替えたのである。
愛国心教育自体は江沢民時代から始まっていたので、下地は十分にある。それで「偉大なる中国」という概念が誕生した。

それでは、何から人民を守っているのであろうか。これに対しては、こんなロジックを用意した。

「中国は外国から脅かされている」

アメリカや日本などの外国による国を転覆させようとする動きから国や人民を守る。それが共産党であり中華人民共和国なのだ。こうなったわけである。

特に日本に対しては、日本政府が「遺憾砲」しか発射しないこともあって、手出ししてこないとわかった途端に「日本いじめ」を開始。

中国政府
中国政府

悪の権現、小日本を懲らしめてやるアルよ!

と、「日本やアメリカの帝国主義から守る中国」に変えた。これが現在の「正統性」の両輪の一つ。もう一つは「歪んだナショナリズム」、イコール中華思想を人民に注入すること。

今回の処理水も「日本を懲罰してやる」という中華思想丸出しで食いかかってくるのである。

あと、「正統性」に関して、中国は実はかなり不安定な要素を抱えているのである。

それは台湾。

中華民国旗

ではなく、「中華民国」である。

中国史における「正統性」は、統一・分裂を繰り返しながら王朝ごとにバトンタッチされる形で伝わるとされる。つまり、

殷→周→(春秋戦国時代)→秦→前漢→新→後漢→(魏呉蜀三国志の時代)→晋→(南北朝)→隋→唐→(五代十国)→宋→(遼・金)→南宋→元→明→清→中華民国→(軍閥どうしの争い、日中戦争、国共内戦)→中華人民共和国

という流れ、これが「正統性」。

辛亥革命により「蒋王朝」こと中華民国は、清王朝から「正統性」を奪い、それを得た。「毛王朝」こと中華人民共和国は、「共産革命」によって「蒋王朝」から「正統性」を奪った。

天から与えられる「正統性」は、一つしか存在してはならない。天は正統性を二つも与えないのである。
が、「中華民国」は台湾に存在している。その「正統性」ならぬ国際法の「正当性」は別問題として、世の中にそれはある。「正統性」が二つある、中国史視点では「異常事態」なのが現在である。

これだと、中華人民共和国は「真の正統性」を持ち得ない。だから台湾は「解放」しなければいけない。いや、本心は「中華民国を消滅させて真の正統性を得る」ことである。

たかが正統性…されど正統性。
台湾にこだわる理由、中国が太平洋に出てアメリカと対峙するという「百年の計」もあるのだが、習近平国家主席がなぜあんなに台湾に執着しているのかの一端がわかると思う。
「21世紀の漢の武帝」を目指している彼にとっては、中華民国を消滅させて「真の正統性」を得、中華の完全体になる…それこそが彼が何度も言っている「中国の夢」なのだろう。私はそう推測する。

蛇足ながら、この正統性は実は中華民国も持っている。
中華民国は、1949年に中華人民共和国に追い出される形で台湾へ逃げ出した。
台湾へ尻尾を巻いて逃げ込んだ蒋介石及び国民党は、「大陸反攻」を唱えながら「中華民国が台湾に居続けるための正統性」を台湾に叩き込んだ。

「正統性」を保つためにまず必ず行うこと、それは前時代、つまり日本統治時代の全否定である。
詳細は省略するが、とにかく日本統治時代は暗黒時代だった、日本人は無垢な台湾人民を100万人殺したうんぬん…なら日本時代に台湾の人口が倍になったのはなぜだ?100万人殺して人口倍増って日本はどんな魔法を使ったんだ?
という疑問には一切答えてくれない。なぜなら、彼らにとってはそれは「正統性を保つための方便」であり、事実などどうでも良いから。

民主化で客観的な歴史研究がなされた現在の台湾では、上記の中華史観ほぼ否定されているが、台湾人でも

台湾人
台湾人

学校でそう習ったから

という理由でかたくなに「日本の悪行」を信じている人、若い人はほぼ皆無なものの、60代以上ではいるにはいる。李登輝氏でさえ、「残念だが大成功」と言わしめたほど、台湾人に浸透してしまった。が、DNAにまで浸透していなかった(若い世代にはほぼない)のが救いであった。

そして、おそらく台湾で唯一、中華民国の「正統性」が残っている場所が台北にある。それは…これはこれで非常に面白い場所なので、後日追って解説したいと思う。

理由3 「戦狼外交」による自家中毒

最近の中国の外交を表す用語に、「戦狼外交」がある。

最近、謎の失脚により外相を電撃解任され、8月の国務院の会合にも閣僚(外相は解任されても無任所相としては残っている)の中で唯一出席せず事実上の行方不明となっている秦剛氏が、その申し子と言ってよいほど先鋭を走っていた。

これについては、元朝日新聞記者で彼とも直接会ったことがある峯村健司氏のコラムに詳しい。

「戦狼外交」とはどんなものか。一言で言ってしまうと、強気一辺倒の外交戦術のこと。
中国への批判には口荒く反応し、時には公の場では発言が憚られるような罵声まで伴って、中国の「強さ」をアピールする。
そして、中国が約20年かけて育てた、愛国というステロイド注射を打たれ自尊心だけが肥大した「強国人間」がそれを支持。もっとやれと煽り立てることにより、その強硬姿勢はますますエスカレートした。

しかし、それが現在、「理由1」で述べた経済不況などの、中国自体の下り坂によって自家中毒に陥ってしまっている。

外交とはそもそも、「硬」と「軟」を自在に組み合わせて行うものである。「テーブルの上では笑顔で握手しても、その下ではお互いの足を蹴り合う」という言葉があるように、時には強気、時には弱気(と言っていいかはわからないが…)に緩急をつけるのが「常識」である。

が、「戦狼外交」は強気一辺倒。
そのせいで、「軟」が使えず強気一辺倒という選択肢しかなくなってしまったのだ。野球に例えたら、ストレートしか投げられない投手のようなものである。
例えば日中交渉でも、変化球である「弱気」な態度を少しでも出そうものなら、

強国人間
強国人間

小日本相手になにを弱気になってるアルか!💢」

と、自分らが育てた「愛国モンスター」に突き上げられる。

しかも、強硬は麻薬と同じでより強い刺激を求める。もっと強く出ろ、何を弱気になっているんだという「強国人間」からの「声援」に応えざるを得ない。
なぜなら、彼らの要望に応えないとそれが即不満となる。これも麻薬と同じで、効果が弱いとすぐに「禁断症状」が出る。不満が溜まるとそれが社会不安となる。
中国というのは、それほどに社会が不安定なのである。
一昔前なら、そんな不満分子などこの世から「和諧」(削除という中国社会の隠語)してしまえば良いのだが、今はネットの目があるのでおいそれとできない。

中国は、「強国人間」という愛国麻薬患者ジャンキーを多数抱えた国家になってしまったのである。

中国政府が恐れているのは、その不満分子と化した「愛国者」からカリスマ性のある人物、例えば漢の劉邦のような、荒くれ者だがリーダーシップがある傑物が出てきて、そこに不満分子が集結し一大勢力となること。
そうなると、それこそ黄巾の乱や太平天国の乱のような大組織が国中を暴れ、国、というか共産党による支配は崩壊する。中国史を知っていればお馴染み、いつものパターンである。

しかし、中共もそうならないような対策を採っている。

中国の急激なIT化、デジタル人民元などのキャッシュレス化など、中国は急激な進化を遂げた。それは事実である。

表面しか見ていないと、わー中国の発展すごい!となる。

しかし、そんな彼らには根本的な思考が抜けている。「なぜ」である。
なぜ、中共は急激なIT化を進めたのか。理由は簡単、革命の目を潰すためである。

「支配階級(王朝・国)が人民のための福利厚生なんてやるわけがない(笑」

私の揺るがざる中国考察の基礎の一つである。これが見えるのと見えないのでは、中国に対する観点が全く違ってくる。

これを軸に「なぜ」を深掘りしてみると、「豊かさ」のアメには将来的な反乱や革命を起こさせないため、人民をすべて管理下に置こうとする毒が仕込まれているというのは、もう説明不要である。

その「超管理体制」は、新型コロナの渦中の最中の「ゼロコロナ政策」で完成してしまっていた。正直、これで人民は「反乱」を起こせない。共産党の自壊を待つしかない。

閑話休題。

「戦狼外交」によって中国は外交の柔軟性を失い、自家中毒に陥ってどうしようもない事態に直面している。日本から何かを引き出そうと「下手したて」に出ようものなら、愛国行為に植えた「強国人間」からの罵声を浴びる。
しかしながら、現在のように強気になると、日本からは何も引き出せない。何せ「ストレートしか投げないピッチャー」なので球筋は完全に読まれている。

しかも、外交的には「完全敗北」している。

今回発狂する前から中共は、「福島に『汚染水』を流す愚」を英語で何度も世界中に発信してきた。日本を悪者に仕立て上げ、「理由2」で述べたように「悪党日本を懲らしめる偉大なる中国」という構図に持ち込みたかったのである。

が、結果はどうか。
国単位で抗議の声が上がったのは中国のみである。我々のわからないところで日本政府や外務省は裏で動き、IAEAという権威を利用し世界中に「根回し」をしていたはずである。だからこそ、どこも動かなかった。
これ、おそらく中国は大誤算だっただろう、かなり焦りを見せている。

その焦りを示す一つの動画がある。

中国の記者がIAEAの幹部に、処理水放出を許したのはなぜか、日本支持100万ユーロの賄賂でももらったのかと質問している。

IAEA
IAEA

(賄賂?)ねーよ!

と幹部はけっこう怒り口調で返しているが、自分が同じことをしているから、日本も同じことをしているに違いないという発想にでもなったのだろう。火事と喧嘩は江戸の華、「嘘と賄賂はシナの華」だから。

中国が描いた「中国が盟主になって全世界が日本を糾弾する」というシナリオが全くの空振りに終わり、中国もそんなはずじゃなかった…とほぞを噛んでいる姿が、この動画から現れている。

最後に。

一言でまとめてしまうと、中国は強気なのではない。

「『強気に出る』というコマンドしかない」のである。そこに「にげる」も「じゅもん」も存在しない。あるのは「たたかう」のみである。
そして、その状況に陥ったのは誰でもない、中国自身である。

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