こちらに、1枚の写真がある。
（出典：聚珍台湾日本語公式アカウント様より）
台湾中部の都市、台中の鉄道駅、日本統治時代の駅構内の写真である。元は白黒であったのだが、AIなどを使ってカラー化したものが上の写真である。
台中駅の歴史
（画像：Wikipediaより）
台中駅は日露戦争さなかの1905年（明治38）に開業した。上の写真は初代の駅舎だが、日本ではどこにでもありそうな、少し大きめの木造建築となっている。
（画像：Wikipediaより）
その12年後、駅が早速手狭になったのだろう、1917年（大正6）に2代目駅舎が建てられた。東京駅を模したような、石とレンガの紅白で外観にもこだった造りの当時の駅舎は、2012年に現駅舎に変わられるまで現役で使われ、現在も国の史跡（重要文化財）として保存されている。
最初の写真も、2代目駅舎の構内の一部である。
そのせいか、同じ大正時代に建てられた内地（日本）の旧大社線大社駅の券売所に似ている気がする。
ところで、最初の画像に写っている情報量はそれほど多くはない。が、撮影の時期を知る重要な手がかりが残されている。
券売所の窓口に、列車の発車時間と行き先が書かれているのがおわかりだろうか。
上の画像では、「12:34 彰化行」との表記がある。上の文字は判別不能だが、おそらく列車種別が書かれたものだろう。
もう一つ、右奥にも同様のものがある。スマホで極限にまで拡大して見てみると、
「○行 12:27 基隆行」
と書かれているのが、かろうじてわかる。○は判別不能だが、看板の流れでは「急行」に間違いはないと思われる。
その列車を、当時の時刻表と照らし合わせてみることにする。
1935年（昭和10）の『復刻版戦前時刻表』には該当の列車は存在しなかった。が、1940年（昭和15）の時刻表を見ると、確かに「午後12:27 基隆行 急行」が存在していた。
さらに調べてみると、この時刻表は「昭和十四年（1939）十月一日改正」と書かれている。それ以前の時刻表には、私の手元にある限りは該当列車なしなので、この写真は少なくても1939年10月以降に撮影されたものだと判明した。
残念ながら、1940年度版時刻表記載の列車は、長距離あるいは優等列車だけだったので、「12:34 彰化行」は確認できなかったが、おそらくローカルな時刻表には掲載されていることだろう。
台湾縦断急行
人口が密集する台湾西部の各都市を結ぶ鉄道は、日本統治時代の1908年（明治41）4月に基隆～高雄間が開通したが、その時から南北を速達で結ぶ急行列車が存在していたと思われる。私が確認できただけでも、1924年（大正13）の時刻表にて1日3本の急行列車の存在を確認できる。
昭和に入り、不景気のせいか2本（昼行1本、夜行1本）に減便されるのだが、1942年（昭和17）より1日3本に戻っている。
1940年の時刻表によると、急行列車は以下のダイヤで運行されていた。
■下り（南行）
昼行：基隆8:50→高雄17:05（所要8時間15分）
夜行：基隆21:45→高雄翌8:00（所要10時間15分）
■上り（北行）
昼行：高雄8:18→基隆16:35（所要8時間17分）
夜行：高雄22:40→基隆8:52（所要10時間12分）
現在、基隆発屏東行き自強号が同区間を約6時間で結んでいるが、スピードでは及ばない蒸気機関車と客車との比較で2時間の差だと、戦前の急行がそこそこ速達で走っていることがわかる。
（『臺灣鐵道要覽 』より）
南北縦貫急行（仮称）には、1等～3等までの車両が連結されていたが、上の写真は高雄駅に停車中の急行列車と1等展望車。日本では特急か一部急行しか連結されていなかった展望車まであったのである。
（『臺灣鐵道要覽 』より）
上の車両とは限らないが（たぶん違うと思う）、台湾縦貫急行の1等車の車内写真である。大正後期から昭和初期にかけて流行った丸窓を使った内装は、豪華の一言にふさわしい特別車両であった。内地の特急の1等車と何ら遜色ないどころか、むしろこちらの方が、伝統などの縛りがない分「モダーン」なつくりに思える。
なお、夜行急行には寝台車も連結されていたそうだが、あいにく写真を持ち合わせていない。
日本統治時代に、このような「モダーン」な急行が走っていたことは、日本人はおろか台湾人も知らない人が多いかもしれない。
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