台湾の新パスポートの仕掛け?

taiwan new passport台湾情勢コラム

2020年9月2日、台湾(中華民国)外交部は、新しいパスポートのデザインを発表した。

(外交部のHPより)

来年2021年の1月よりパスポートの表紙が変更になるとのことだが、それ自体は外野である我々日本人がどうという事ではない。早く台湾に行かせろという方が大きいが、これはしばしの我慢。充電中と思えば良い…。
が、このパスポート、よく見るとある「仕掛け」が存在しているように思える。

 

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台湾の「新パスポート」とは

2021台湾新パスポート台灣新護照
(画像:自由時報より)

左側が従来のパスポート、右が新パスポートなのだが、色は大きさなどは従来と変わっていない。IC対応なのも、従来からそうである。

では、何が変わったのか。
外交部の説明によると、”TAIWAN PASSPORT”の文字が浮いて表示されるようになり、より「台湾」を強調しているそうだが、私が「おや?」と思ったところは、そこではない。

”Republic of China”の文字がないのである。

いや、厳密には…

Taiwan new passport
(外交部HPの画像をアップしたもの)

青天白日のマークのところに小さく書かれているのだが、これじゃぱっと見わからない。私も外交部のHPの画像を極限にまでアップして、初めて気づいたほどのさりげなさ。強いて言えば、「書いてないなんて誰も言ってない」程度のものである。

上に「中華民国」と書かれているじゃないかと思うだろう。はっきり指摘すると、それは視野狭窄である。自分の視野の狭さを嘆いた方が良い。
「中華民国」と書かれているのは漢字である。それを見て「中華民国」とすぐに認識できるのは、漢字がわかる人のみ。漢字を使わない、または理解できない大多数の人は、それが「中国」であることはわからない。
むしろ、下の”TAIWAN”の方に目が向くのは考えなくともわかること。その上で、文字を浮かせて文字自体も大きくし、”TAIWAN”を強調している仕掛けも存在している。

これには、実はちゃんとした理由がある。

今回、なぜ政府がパスポート表紙を変更したのか。
世界で猛威を振るった…いや現在でも静かに猛威を振るっている武漢肺炎(新型コロナウィルス)の震源地は、言わずと知れた中国である。

repblicofchina passport

従来のパスポートには、「中華民国」の文字と共に”Repblic of China”と書かれている。

隣国の日本ですら、中華民国と中華人民共和国の区別がつかない人が多いというのに、遠い欧州などではどうだろうか。おそらくわかるまい。
以前、岐阜で『哲人王-李登輝対話編』という映画を鑑賞した際、監督メッセージでこんなことを言っていた覚えがある。

「台湾は、李登輝さんは、日本では有名だけれども、ヨーロッパや他の国では日本人が信じられないくらい知名度が低い」

日本では「台湾」とくれば場所はもちろん、どんな所かざっくりとイメージできる人が多いはずだが、ヨーロッパではぶっちゃけ「中国の島でしょ」感が強い。
バックパッカー時代に欧州の某国の安宿で出会った、英国留学帰りの台湾人は、”I’m Taiwanese”ではなく”I’m Formosan”を意識して使っていた。何故”Taiwanese”を使わないのかと聞くと、”Taiwanese”だと中国広東省人の”Cantonese”と同じく、「中国の一地方」という認識されるからだという。たとえその語彙自体に「中国の一地方」というニュアンスは入っていなくとも、ネイティブはイメージとしてそれが浮かんでしまうのだと。ああなるほどと納得した覚えがある。
ちなみに、私が「台湾人」をあらわす英語に”Formosan”もあることを知ったのは、この時である。

我々がスペインのカタルーニャ独立運動やベルギーの言語戦争に無関心なのと同様、向こうの一般庶民も「台湾問題」には無関心なのである。

そんな状態で”China”のパスポートの文字を見たらどうだろうか。係官でさえ「中国人」と思わざるを得ない。武漢肺炎でただでさえ「中国人」に対する風当たりが強くなっているのに、「台湾人」が”China”のパスポートを持っているが故に、言われもない屈辱を味わう…否、入国拒否などの実害もあったのだろうと思う。

”Republic of China”の文字を消せという声は、今年の2月か3月くらいから出始めたそうで、5~6月に立法院で変更案が可決されたというニュースを聞いて、私もツイートした記憶がある。
今回の変更は、それが前提にあるのである。

国際慣習上、パスポートの表紙には国号と国章(それがなければ国を表す紋様)を必ず付けないといけない。日本の場合はお馴染み菊の御紋(十六八重表菊)が伝統として国章扱いされ、パスポートの表紙を飾っている。
全世界190ヶ国以上のパスポートを俯瞰的に見ることができるサイトで全世界すべての旅券表紙を見てみたが、一つとして例外はなかった。

さて、台湾の場合はどうだろうか。

taiwan new passport

青天白日マークの円の中に”Republic of China”の文字を入れ、国際慣習に逆らっていないギリギリのラインである。
我々は台湾とふつうに呼んでいるが、感情をシャットアウトして現実を冷酷に見ると、残念ながら台湾は国号ではない。よって、パスポートには”Republic of China”を抜いて”TAIWAN”だけにすることはできない。そうすれば、世界がパスポートを無効にし、認めない可能性すらある。そうなると台湾の人全員が海外に行けなくなるという、最大の悲劇が生じる。
理想と現実のソフトランディングとして、まるで隠しアイテムのように「国号」を入れ、”TAIWAN”を強調する。漢字がわからない大多数の人は、”TAIWAN”を見て「台湾国」を認識する。
ここまで至るのにかなりの議論があったのは容易に想像できるが、「中華民国」、いや国際慣習のギリギリのラインで落とし所をつけたこれは政府の技ありといったところだろう。
テニスに例えたら、相手(国際慣習・国際法)のコートの隅ギリギリにボールを落としたといった感覚を覚える。

 

新パスポートに見る「脱華」

台湾問題で非常にややこしい事は、「台湾は中華民国なのか」ということである。
台湾は台湾である。確かにそうであるが、

これもよく日本人が間違える事だが、「台湾独立」というのは中華人民共和国からの独立ではない。台湾に居座っている「中華民国」からの独立である。
これを語るとまた話がややこしくなるので詳細はまた今度だが、パスポート一つ取っても”Republic of China”の文字を極小化することによって、「脱華」、つまり「台湾の独立」へと一歩進めた作業でもあるかもしれない。

もちろん、今回の変更の理由は上記の通りである。が、執政与党である民進党の原点は「台湾独立」、現在は現実に合わせその声を封じているが、原点を忘れていなければ「まずはパスポートから」と「中華民国」の皮を一枚ずつ剥がし、気づいたら…という合わせ技による「技あり」かもしれない。その腹の内は、「中の人」しか知らない。

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