海外で中国語を話さない台湾人とそのアイデンティティ

台湾人アイデンティティ台湾情勢コラム
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なぜ中国語で話してくれないのか?ある中国人の嘆き

いつものようにSNSサーフィンをしていると、こんな書き込みを見つけた。

台湾人はなぜ中国語を話さないのか
なおローソンは関係ない…

「台湾人はなぜ海外で中国語を話さないのか」

「羽田空港で2ヶ月働いてるんだけど、台湾人って全然中国語話さないんだよね。
こっちが中国語で対応してもわからないふりして英語で話そうとするんだ。
台湾には「海外で中国語を話してはいけない」って法律でもあるのか?

他意はない、ただの素朴な疑問なんだ。台湾人の回答を待つ。

原文翻訳:台湾史.jp

これを見つけてX(旧Twitter)にポストしたところ、バズりにバズった大花火大会となった。

これに対する台湾人の反応が本音たっぷりでとても面白かったので、以下羅列。

台湾人の反応
台湾人の反応

答えないのが答えだwww

台湾人の反応
台湾人の反応

中国人と一緒にされたくない。以上

台湾人の反応
台湾人の反応

おい中国人、自分の胸に聞いてみなよ

台湾人の反応
台湾人の反応

🇯🇵なんだから日本語話そうぜwww

台湾人の反応
台湾人の反応

お願い、声かけないで… |・ω・`)

台湾人の反応
台湾人の反応

前に日本の食堂で中国人と相席になったとき、中国人は中国語のメニューを頼んだけど、

こちらは英語のメニュー頼んだよ。中国人と一緒にされたくないからな!

台湾人の反応
台湾人の反応

わたしたいわんごならはなせますwwww

台湾は、見方によっては日本よりフリーダムな世界である。自由ということは、情報もより多く入ってくるという良い副作用も生じる。中国人が日本で嫌われているのを知っているし、日本人の中国(人)嫌いも色々な場面で肌で感じている。
知らぬは中国人ばかりなりなのである。

台湾人ですバッチ

最近の台湾人旅行者は、

「私は台湾人です」

と書かれたバッチをつけていることが多い。
これは中国人と間違えられたくない台湾人の自衛策の一つ。それほど欲しくない風評被害を受けているということで、コロナ後で対中感情が悪化した国々での被害が大きかった。

それは相当なものだったようで、台湾政府もこれは一大事と、なんとパスポートの表紙を変えてきたのである。
これについての事情は、下の記事を見てほしい。

台湾人は中国人を嫌っている。

海外で中国人と間違えられたくない。

これもまた正解であるが、それだけではない。
もっと台湾人の本質に迫るものがこの「中国人の嘆き」に含まれていることに、多くの日本人は気づいていなかった。少なくても、私のポストの反応を見ていると。

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「同胞」と台湾人アイデンティティ

最初の中国人の投稿のタイトルと翻訳、実はある部分をわざと省略している。正確な翻訳は以下の通り。

「台湾人はなぜ海外で、同じ中国人に対して中国語を話さないのか」

「羽田空港で2ヶ月働いてるんだけど、台湾人って全然中国語話さないんだよね。
こっちが中国語で対応してもわからないふりして英語で話そうとするんだ。
台湾には「海外で中国語を話してはいけない」って法律でもあるのか?

他意はない、ただの素朴な疑問なんだ。台湾同胞の回答を待つ。

翻訳:台湾史.jp

これはかなりの地雷である。触れてはいけない部分に触れたと言ってよい。

これに対する反応がいちばん多く、

台湾人の反応
台湾人の反応

我々は「同胞」ではございませんので

台湾人の反応
台湾人の反応

同じ中国人?一緒にすんな!

台湾人の反応
台湾人の反応

Chineseですか?いいえTaiwaneseです。

台湾人の反応
台湾人の反応

同胞?人違いではなくて?wwwww

あいつら中国語話すとすぐ同胞扱いするから鬱陶しいんだYO

台湾人のコメを見ると、中国語を聞いたり「同胞」らしき人物を見るとすかさず近寄り、

中国人
中国人

中国人アルか?

と聞いて「同胞」扱いしてくるそうで、これが非常にうざく感じるのだとか。
筆者も台湾人から教えてもらったのだが、これを中文で「装熟」といい、中文で調べてみると香港で生まれたネットスラングらしい。

実は私も「装熟」された経験が何度かある。
思い出深いのか、ロシアのモスクワでのこと。「同胞」と間違えたか、中国人が私に声をかけてきた。私も私で中国語が話せるので、何?俺中国語話せるけど中国人じゃねーぜとふつうに反応、うわ!あなた中国語話せるアルか!とふつうに立ち話をしていた。すると、いきなり警察にしょっ引かれたおそロシアな経験がある(笑
パスポートを見せても警察は「JAPAN PASSPORT」の英語がわからず(当時のロシアは英語が全く通じなかった)。ビザを見せ、

筆者
筆者

Я не китаец!! Я японец!!

(俺は中国人ちゃう、日本人や!)

と覚えたてのロシア語で叫び、私は「イワシの中にマグロが一匹紛れ込んでた」とばかりに解放されたが、中国人ご一行様はご連行…シベリア鉄道道中でヒマすぎたのでロシア語覚えておいてよかった…諸君、行く国の言葉はできるだけ覚えておこう。どこで役に立つかわからないから。

閑話休題。

先日中国の杭州にて行われたアジア大会で、こんなシーンがあったらしい。

杭州アジア大会中国人台湾人

左下のボードから野球の試合のようだが、

中国
中国

都是♥自家人

(我々は兄弟(身内)だ!)

とエールを送っているのに対し、台湾側の反応は

誰跟你一家親

というプラカードを掲げている。これはどういう意味なのか。

この翻訳はなかなか難しい、というかいろんな訳の仕方ができるが、要は(超訳すると)

台湾人
台湾人

誰が兄弟だって?知らねーよそんな兄弟www

ということであり、中国人の「我が同胞よ!」に対して明確に拒絶の意思を表しているのである。

台湾でも、戦後に中華民国(=国民党)による徹底的な「中華民族教育」を受け、李登輝元総統によるとこれは「残念ながら大成功を収めた」。

この「中国人教育」は、のちの台湾人のアイデンティティの揺らぎに大きな影響を与えた。

私が台湾に住んでいた1997年も、「自分は台湾人である」という人はほとんどおらず、「中国人である」という人と「中国人であるし台湾人である」という人が圧倒多数。
かつて香港人が自分の都合で「中国人」と「香港人」を使い分けており、

筆者
筆者

いやお前どっちやねん!

という「割り切り」を好む日本人には、非常に不愉快な感情を覚えた。

実は台湾人も同様だった。「中国人」として都合の悪い時は

台湾人
台湾人

いえいえ私台湾人ですから!

と逃げる。

筆者
筆者

お前らいろんな意味で「中国人」だわ…、大陸に14億いる「同胞」と変わらん

と怒りで吐き捨てたこともあった。私もやはり日本人、「割り切り」を望んだのであるが、これぞ「”中国人”の生きるための知恵」なこと、そして台湾人の微妙な立場に気づいたのは、もう少し時間を要した。

それから四半世紀以上の月日が経った。

その間に、台湾では台湾人としてのアイデンティティが熟して大きな変化を遂げていた。

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2023年台湾認同調査。2023年台湾人アイデンティティ調査
台灣民意基金會2023年3月調査

実は台湾では定期的に「認同調査」というアイデンティティ調査を行っている。調査機関によって数字がバラバラなので、一つの結果だけを示すのは平等とは言えずこれが台湾人の民意だとは言い切れないが、ここでは敢えて、筆者が体感として近い一つの結果で解説することを前置きしておく。

調査の結果は、「台湾人である」が8割。日本人から見ると「どっちつかずのご都合主義」である「台湾人であり中国人でもある(9.1%)」を入れると、9割が「台湾人」としての意識を持っている。
そして、私の台湾在住時には多数派だった「中国人」は、わずか7%に留まっている。

台湾人としてのアイデンティティを持つということは、つまりは「中国人に非ず」という意識のあらわれである。XやFacebookでの台湾人のプロフを見ると、

Taiwan is Taiwan, not China.

と書かれていることが多く、台湾人としての矜持きょうじの一つ。英語のTaiwaneseも、

台湾人
台湾人

我々は中国人に非ず!

というアイデンティティの向上から出てきた単語である。間違ってもTaiwan Chineseと呼んではいけない。

ここでハッと気づいた人は勘が鋭い。上述した「私は台湾人です」バッチも、確かに「防虫剤」効果も否めないが、台湾人アイデンティティの一つの形。50年間、「中華民族」として封じ込まれていた「台湾人」としてのアイデンティティが花開いた一つの形といってもよいのである。

そして、台湾人を「中国人」と呼ぶ一部の日本人の愚にも気づく。

中国人としての衣を脱ぎ捨て、台湾人としての新しい服を着る。これを「脱支」という。「支」は何を指すかは説明するまでもない。
これが、いわゆる「台湾独立」にもかかわってくる大切な問題である。

この流れは、「立派な中華民族」であって欲しい中華民国、いや国民党にとっては当然都合が悪い。台湾人としての意識と「中国人」との戦い、台湾はある種「アイデンティティの内戦中」とも言えなくもない。だから、中華人民共和国も中国国民党も「台湾独立」を許さないのである。

ちなみに。
私はこれを「支滅の刃」と言っており、我が造語の中でも3本の指に入る傑作だと自画自賛している。

台湾人に言わせれば、

中国人
中国人

中国人アルか?

台湾人
台湾人

・・・

反応しないことで「違います」と示しているのである。「中国人じゃない」から応える必要もないと。

これが台湾人の答えである。わかったかな中国人たち?
いや、都合の良い時だけ「同胞」とニコポンしている、四半世紀から何も変わっていない、相手を知ろうとしない彼らには永遠に理解できないだろう。

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