台湾人の反応
中華圏情勢に関して、私は感情的に反応しません。今は陸に上がった魚状態とは言え、腐ってもエキスパート。
「台湾見損なった!」
「台湾製品不買だ!」
とカッカして何も見えない連中の感情的意見とは一線を画し、冷静に情勢を見つめるのが常。感情的になると逆に盲目になり、見えるものも見えなくなります。
「大衆の熱狂の渦に入るな、自分も巻き込まれて流される。ビルの10階から通行人を俯瞰的に観察しろ。ただし、双眼鏡は忘れるな」
26年前、無学無教養、血の気と鼻息だけが荒かった若造に対し、懇々と外国の見方を教えてくれた先輩留学生の言葉が、現在でも血となり肉となって身についています。
台湾人の反応を見るまでは悲観も楽観も無用だと、台湾のネットの声を一通り見てみましたが、案の定「お前が言うな」が多数。
「また『中国人』の仕業か」
「831慰安婦像まだ~?」
と、831部隊の名前を出してツッコミを入れている人も多数見受けられました。現地の反応は至って冷静。
831を持ってくれると、「中国」国民党としてははなはだ困ってしまいます。建前になってしまったとは言え、国民党の使命は「祖国統一」。その手土産として、台湾人には立派な「中華民族」になってくれないと困るのです。
「中華民族」「台湾人」とのアイデンティティのせめぎあいが、現在進行系で続いている。それが旅行で行った程度では見えない現代台湾情勢です。
国民党の焦りと国内事情
慰安婦ネタなど何度やっても軍中楽園ブーメランなのに、何故今回また自爆不可避の地雷に手を出したのか。日本にとっては一件Bad Newsに思えるこの慰安婦像設置、冷静に情勢を観察するとむしろGood Newsだったりします。
最初このニュースを見た時は、慰安婦ネタで新しく叩けるロジックでも編み出したのかな!?と思ったのですが、当日の除幕式の馬英九前総統の演説を聞いてみると、特に新しいネタはありませんでした。
「謝罪ガー」と「補償ガー」しか出てこず。なんだ新ネタないのかよとガックリしたほどです。しかし、ブーメランネタにすがりつかないといけないほど、国民党は切羽詰まっているなということを感じました。
2016年1月、台湾では総統選挙が行われました。結果、民進党の蔡英文総統が選出されたことは周知の事ですが、同時に立法院選挙、日本で言えば衆議院議員選挙も行われていたことは、知らない人が多いと思います。日本は総統選挙しか報道せず、なんだか台湾で選挙やってるらしいね~くらいの認識でしたが、台湾が中国になるかどうか、国と民族の存亡を賭けた瀬戸際だったのです。
その結果は、若者が作った伏兵政党「時代力量」が躍進、民進党も史上初めて立法院で過半数を獲得。国民党は全くいいところなしというほどボロボロに負けたのです。
何故負けたのか。国民党の馬英九政権が中国に近づきすぎ、台湾人に警戒されたからです。この選挙の結果は、台湾人が「中国」と「中国人」に対しNOを突きつけたということです。
台湾の歴史は、「外来政権に支配された歴史」でもあります。
江戸時代初期のスペイン・オランダから始まり、鄭成功、日本、そして国民党(中華民国)…台湾人は「民族自決」を味わったことがありません。これを約30年前、李登輝総統(当時)が「台湾人の悲哀」と表現しました。
台湾の将来は台湾人が決める。そんなもの当たり前といえば当たり前ですが、そんな当たり前のことができなかった、いや現在もできない国が隣にある。
台湾のご飯おいしい、台湾大好きとキャーキャー言っていれば日台友好だと思っているのが日本人のおめでたい脳みそですが、確かに初っぱなはそれでいい。が、何十回も台湾に行きました、でも歴史何も知りませんはただの阿呆。耳障りですがこれが私の見解です。
で、国民党が、不倶戴天の敵のはずの中国と結託した結果…それが拒絶反応となり総選挙の議席数という数字で出てしまい、国民党は少なからずショックを受けたのです。
かといって、国民党は既に、
上の画像のような状態(笑 今更「台湾回帰」はできない…。
台湾人には「売台党」と石を投げられ、私には「中國共産黨臺灣聯絡處」って改名すれば?とブラックジョークをかまされるほど、堕ちてしまったのです。
その傷がまだ癒えていないのでしょう、「出してはいけないネタ」を出すほど、彼らは追い詰められている。そういう見方もできます。
また、現地のニュース記事を見ていると、「慰安婦像」というネタで民進党に揺さぶりをかけた、台湾内の権力争いの色合いが強い。つまり日本は関係ない。
海外情勢は国内情勢の延長という言葉があります。その逆も然りで、内輪の争いのネタに「海外情勢」を出してくることは、「中国」ではよくあることです。
これは『三十六計』という計略のイロハを書いた書物にある『指桑罵槐』(桑を指して槐(えんじゅ)を罵る)で、表向きは日本を叩いているものの、本当に批判している相手は(日本に近づく)民進党と台湾民衆というわけで。こんな計略は「中国」では日常茶飯事ですが、「中国人」のやり口には『三十六計』がよく出てきます。
2018年の国民党の慰安婦にしろ、2020年の中華統一促進党の慰安婦がどうだのも、与党・政権党である民進党に揺さぶりをかけたい、そういう思惑があります。慰安婦は言わばそのネタ、そして二つの組織の背後にあるのは…もう私が書くまでもありませんよね。
そして3つ目は、現在史上最高に良好と言える日台関係に、少しでもヒビを入れたいという魂胆もあるかと私は踏んでいます。
Facebookには
「祖国と統一?なら日本と統一だ!」
「両岸一家親?ああ日本と台湾だよね(笑」
というネタ垢があり、けっこうな人気を経ています。そういうネタで盛り上がれるほど、日本に対する親近感、裏を返せば中国に対する嫌悪感が根底にあります。
日本人は「親日」だけに目を向け、「嫌中」は差別だ、かわいそうだ、そんなの私の知ってる台湾人じゃないと臭いものには蓋をする傾向がありますが、それにより台湾を正しく見ることができない「認知の歪み」が発生しています。「台湾バイアス」とでも仮称しておきましょうか。
「中国人」にとっては、そんなに日本にベクトルを向けてくれると、自分らの居場所がなくなる…自分らが「中国人」であるためには台湾は「中国」でなければならない。まことに勝手な理屈ですが、彼らはそういうロジックで動いています。だから曖昧でぼんやりした「中華風のにおい」を出して台湾人のアイデンティティを揺れ動かしています。
が、そんな事情も知らず、知ろうともせず、表層だけの現象だけでやれ見損なっただ、もう台湾に行かないとか感情的に反応することこそ愚の骨頂。正直、いちいち感情的に反応する人は、昨日はOK、今日はNGな海外情勢を語るなんてやめといた方が身のためです。精神が持たないし、そういう人こそ、してやったりと向こうの思う壺(カモ)なのだから。