台湾には、日本が遺したある文化が現在も根付いている。それは駅弁。
”鐵路便當”と書くのだが、直訳すると「鉄道弁当」なので、駅弁には間違いない。
その中でも、台湾東部の「池上」という地の便當が有名で、木箱に包まれ現地のお米を使った素朴な味は、便當と言えば池上の名を欲しいままにした。
しかし、地図で見るとおり、池上は台湾へ渡航してもなかなか行ける場所ではない。正直、台湾でいちばん行きにくい場所の一つ。
台北など都市部でも販売箇所が限定されており、日本で味わえることはまあ不可能であった。
が!池上弁当を日本で!それがついに実現された時がやってきた。
2024年2月16日、大阪の西成区山王に、ある台湾料理店がオープンした。
なんと!池上弁当を売りにした台湾料理店である。これは行かねばなるまい。
…と一部の人は躊躇するかもしれない。実際、ツイッターでも
え…DEEPなところやん…
という声がチラホラ。
確かに日雇い労働者のあいりん地区、現地の人は今でも「釜ヶ崎」と言っているが、に存在しているが、ここは戦前からの住宅街。一時は「連れ込み宿」が乱立し、飛田新地という「遊郭界の木星」の衛星的売春街(いわゆる「青線」)だった時期もあったが、そんなのはもう60年も70年も前の話。
さらに、非地元民に強いイメージが残る「日雇い労働者」も、同じあいりん地区ながらエリアが少し違う上に、60年代後半〜70年代の高度経済成長の縁の下の力持ちだった彼らも年を取り、数もめっきり減った。
昼間から飲んでる飲んだくれも稀にいるが、彼らもほぼいなくなった。超高齢化で酒どころではないのである。
んなもん、いつの時代の話しとんねんwww
地元民としての偽らざる所感である。
というわけで、あいりん地区も今はすっかり様変わりしてふつうの町と化している。真昼にピザを頼んでたら後ろから強盗に襲われる…なんて、リオデジャネイロやヨハネスブルクのようなことはないから安心して欲しい。
それ以前に、そんなところで「ふつうの人」を相手にしなければならない台湾料理店をオープンして繁盛するわけがない。商売は慈善事業ではない。
閑話休題。
池上便當が大阪で食える!という熱いツイートをオープン初日に見た筆者は、翌日が土曜日というラッキーもあって、オープン2日目に突撃を敢行することに成功した。
通天閣がある新世界と飛田新地をつなぐ道の南側、「飛田本通り商店街」を南下すると、アーケードが一瞬だけ途切れる場所がある。実はそこにはかつて「南海電鉄天王寺支線」という鉄道が平成はじめまで走っていたせいなのだが、それは本題ではないので省略する。興味ある人は、下のブログを見て欲しい。
そこにこんな看板がある。これが目印である。
そこを左へ曲がると…
このように、「台湾料理」の看板がお出迎え。旭日模様と台湾が日台融合を表しているようだが、お隣の某半島人の一部が見たら発狂しそうな看板ではある。
店名の「熱炒」は、直訳すると「(強)火でサッと炒める」。これだけではよくわからないが、要は台湾式大衆食堂・居酒屋のようなもので、観光客には鉄板の鼎泰豊のようなレストランが台湾グルメの「ハレ」とすれば、熱炒はローカルが普段着で通う「ケ」の食堂。夜市にある露店の店舗型と想像すればハズレではない。
中に入ると少し奥まっており、あれ店間違えた!?的な錯覚を覚えるが、間違いではないので奥へ進もう。
すると、広々とした店内が!
店内には台湾歌手の歌が流れ、テレビのディスプレイには台湾のテレビ番組が。
まだオープン2日目なので、まだ「作った感」があるのだが、時間が経つと台湾のような雰囲気がしっくり来るのかもしれない。
台湾熱炒のメニューと注文方法
ここには料理屋には必ずあるメニューがない。さて、どうやって注文するのか。
席番号が書かれたQRコードを渡され、これスキャンしてと。
要は、QRコードをスキャンし注文画面に進むという、今時の注文方法である。以前訪れた台湾料理店「好呷(ホージャー)」で同様のことは経験済、特に慌てることはない。
QRコードをスキャンすると、上の画面が出現する。
下に「メニュー」のボタンがあるので、そこをタップするとメニューが出てくる。その前に、言語も日本語と繁体中文が選択できる。
次の画面でメニューを選択し、カートに入れて注文すればOK。メニューは中華でもお馴染みの料理から、台湾独特のものまで様々。一瞬しか見なかったが、台湾料理店といえばお馴染みの魯肉飯もあったはず。
しかし、ここまで来たからにはやはり、ここでしか食べられない池上弁当を食するのが正解。
お目当ては、「お昼限定」のタブの中にある。つまり、今の時点でランチ限定なのに注意。
「台湾熱炒」での池上弁当は、現時点では店舗なしなのでテスト販売。現在フランチャイズ店募集中とのことなので、脱サラして神戸で池上弁当のお店作ろうかしらん。
以上のことから、注文時にスマホは必須である。ではスマホがなかったら注文できないのか!?おそらく、紙のメニューもあるのだと思う。そこは聞かなかったのだが。
池上便當を食す
注文して待つこと約10分、出てきたのは…
弁当ちゃうやんけ💢💢
まあまあ落ち着いて話を聞いて欲しい。
私が頼んだのは池上弁当だけではない。いちおう¥2000以内で組んできたので、池上弁当(¥1000)だとまだ予算内。
ほな、ならもう一品くらい頼んでしまえ
と頼んだのが、この番茄炒蛋というもの(中国では「西紅柿炒蛋」と書くところも)。「番茄」はトマト、「蛋」は卵なので、日本語に訳すと「トマトと卵の炒め物」となる。
日本の中華では馴染みが薄いが、台湾・中国共通の庶民メシである。
これには、私事ながら思い出がある。
日本にいた頃はトマトが大嫌いで、サラダに出ても絶対に口に入れなかった。親に何を言われようと頑として受け入れず、親の方が根負けするほどだった。が、中国でこの番茄炒蛋と出会いあまりの美味さにトマトが食えるようになった。
中国から帰国後、トマトをムシャムシャ食う私に、母親があんた中国で何があったんだ?ちゃんとメシ食ってるのか?と驚いていたほどである。
この番茄炒蛋との出会いが、一人の人間のトマト嫌いを克服させたのである。
そんな思い出があり人一倍思い入れがある番茄炒蛋だが、今回セールでワンコイン(¥500)だったので頼んでみた次第である。
で、食べてみると…これが非常に美味い!!
オイスターソースが利いてるのか味付けが少し濃い目だったが、これはこれで良い味を醸し出している。淡泊な味だとトマトの酸味で不味くなってしまうが、濃いめならトマトの癖が少なくなると思うが如何。
本来は弁当と一緒に食べようと思った番茄炒蛋、あまりに美味いのでメインディッシュが着く頃にはすでに完食。ご飯が欲しかったところだが、これは致し方ない。
そして、やって来ましたメインディッシュ!
その姿は、ネットで見た池上弁当そのもの。私はチャーシューにしたのだが、メニューにあるように角煮や豚ロース(排肉の代わり?)など何種類から選ぶことができる。
池上便當自体筆者は台湾で味わったことがないのだが、鐵路便當は何度も食べているので舌が覚えている。
肝心の味はというと、まさに台湾の便當そのもの。素朴な味なのだが、野菜にほのかにニンニクの味が染みており、これがたかが野菜の味を立体的にさせている。
過去に京都の代表的台湾料理店、「微風台南」の「青菜炒め(炒青菜)」が、たかがチンゲン菜を油で炒めただけなのにやけに美味かったのも、ニンニクで炒めたからであろう。ここも美味しいので京都に寄った際は訪れるがよろし(巻末にリンクを貼っておきます)。
あと、気になったのが池上弁当の背骨であるご飯。
池上は米の名産地として有名で、台湾北部の温暖かつ気温差が少ない気候から、年がら年中お米が収穫できる。日本時代から米の三毛作区域として重要視され、総督府の農業研究所が置かれたこともある。
なので、池上弁当は「池上米」あってこその池上弁当なのだが、米を食ってみると日本米より若干ながらドライな感じがした気がする。
この便當を作るのに、スタッフを現地で修行させたそうだが、もしかして米も台湾の蓬莱米!?
あくまで「気がする」なので筆者の気のせいかもしれないが、これを見た読者の皆さんも、実際食べてみて感想を聞かせて欲しい。
味噌汁+「台湾式」=味噌湯
池上便當には味噌汁もついている。
一見するとふつうの味噌汁なのだが、
もしや…これ「台式」!?
と、震える手で口にしてみると…やはり甘い。
台湾には日本人が遺した食べ物が現在でも多く残っているが、味噌汁もその一つ。「みそ」が日本語のまま残っているのだが、「みそしる」は通じず、”汁”が中文風に”湯”となり北京語で発音された上で、「ミソターン」となっている。
ただし、その味噌汁も長年の歴史を経て少し、いやけっこうTaiwanaize(タイワナイズ)されている。その代表が「甘い!」こと。ただ甘いだけではない、
お宅の味噌汁の出汁はサトウキビかガムシロップでっか?
と嫌味を言いたくなるほどに甘いのである。
でもわたし、こっちの方が好きなんです♥
台湾の味噌汁はこうでなくちゃ!
という人もいるので、人の味覚にあれこれ文句を呈するつもりはない。ただ、私は生理的にダメである。池上弁当付属味噌汁を食った時に「手が震えた」のもこのため。
しかし、最初の一口目は甘さを感じたものの、二口目からはさほど甘さを感じなくなった。少なくても、私が拒否感を示すほどの甘さではなかったようである。
ところで、日本統治時代に台湾に住んでいた内地人は、1935年(昭和10)のデータによると約27万人。そのうち約44%が九州出身である。沖縄県を入れると約47%、ほぼ2人に1人が九州・沖縄出身ということになる。
味噌汁と九州出身、どういうことか。
九州の味噌汁は、鹿児島のさつま汁も含め全般的に甘いと聞く。九州の味噌を使ったことはないのだが、醤油は実はけっこう愛用しており、はま寿司での醤油ももっぱら九州醤油である。
今回の池上便當も、そう考えると「甘い」といってもさつま汁よりは甘くないかな!?
という程度であったのだが、台湾の味噌汁が甘いのも、もしかして九州の影響を受けていた…なんて仮説を立ててみるのも興味深い。そう思いながら、私はこの味噌汁を完食した。
最後に
池上便當はまだテスト販売なものの、日本初上陸だけあってこれから伸びる可能性もあるものである。台湾フードは
これ、日本で売ったらウケるんちゃうのん?
と思うものがいくつかあるのだが、いかんせん先立つものも料理センスも経営センスもない。
フランチャイズ募集中とのことなので、興味ある者はまず食べてみて、やれるかどうか試してみては如何だろうか。
また、山王という少し特殊だがそのイメージを払拭するためにも、少し現場を見るついでに寄ってみるのも良いだろう。
台湾熱炒
◆住所:大阪市西成区山王2-15-17
◆電話番号:090-3438-1299
◆営業時間
・平日:11:00〜15:00 17:00〜23:00
・土日祝:10:00〜15:00 17:00〜24:00
アクセス:地下鉄御堂筋線「動物園前」より徒歩7〜8分
JR新今宮駅東口より徒歩12〜3分
(飛田本通り商店街南下)