台湾中部、というか北中部というべきか、に新竹という町がある。
名物のビーフンや、台湾半導体などの台湾が誇るハイテク産業の基地としても名前が知られているが、その交通の玄関口、新竹駅の駅舎はそのシンボルとなっている。

大正時代に建てられたその駅舎は、現役としては最古のもの。
当時最先端のデザインだった丸窓をふんだんに採用し、当時としてはかなり攻めたデザインである。その証拠に、100年経った現在でもその姿は色あせていない。
近代建築マニアがヨダレを垂らすこの駅舎から、たった2駅のところにもう一つ、台湾有数の古さを誇るレトロな駅舎がある。
それが今回の主役、香山駅(香山車站)である。
香山駅

新竹駅から南へたった2駅、時間も10分もかからないところに、こんな木造のレトロ駅舎がある。
新竹駅が当時の最先端の洋風デザインを用いた建築なのに対し、この香山駅は至って純和風といっても過言ではない「和」。
たった2駅違いで、こんな対称的な「日本建築」が存在するのが台湾歴史探訪の面白さである。
香山駅は、日本統治時代の1902年(明治35)に開業し、現在の駅舎は昭和に入った1928年(昭和3)に建てられたもの。
当時は台湾檜使用率100%という贅沢な作りで、2013年に大幅なリフォームがなされた。
建築様式は、入母屋造で、妻の部分の破風など、数ある日本統治時代の駅舎の中でも日本の建築様式が色濃く残った「純和風」である。

屋根の瓦も、日本の黒瓦が使われている。
総木造建築の駅は台湾でも残り少なくなり、香山駅を含めて2〜3駅しかなくなってしまった。他は集集線の集集駅くらいか。
台湾はシロアリの害がすごく、木造建築はたちまち餌食になってしまう。
その点では、現代風の鉄筋コンクリート製にした方が、メンテも含めてはるかに安上がりである。
日本は実際、そういう考えでどんどん建て替えられている。
ただし、台湾のシロアリはそのコンクリートまで食べてしまうそうなのだが…。
しかし、台湾は敢えて「そのまま」にこだわっている。

どこまで「そのまま」かというと、ここまでそのままである。
これは日本でもだんだんと少なくなってきた「開き戸」である。木の色の剥がれ具合からかなり年季が入っていそうだが、これも「日本ならでは」というのをわかって保存しているはずである。

改札口も、時代の流れかICカードセンサーはついているものの、できるだけ原型を保とうという努力がうかがえる。

鎖樋(くさりどい)まで再現しているキメの細やかさ。
各駅停車しか停まらないローカルな駅だが、新竹駅からほんの2駅のこの香山駅、台湾に来た時に立ち寄って台湾で「日本レトロ」を味わってはいかがだろうか。