筆談-究極の漢字コミュニケーション

台湾華語・中国語

 

(画像はイメージです)

20年前、中国の北京を旅行していた時のこと。昼飯を食べようと、駅前の人の往来が多い通りの食堂に立ち寄った。

別に何の変哲もない、夫婦ふたりでやっているごくふつうの大衆食堂だったのだが、安徽省出身の奥さん(老板娘)の明るさで建物の古さや多少の不潔さは気にならない程であった。

どっから来たんだい、日本からだ、あんた日本人かいえらい中国語上手いね、そうだよ見た目でわからないか、いやわからないという他愛もない会話をしていると、老板娘が何か思い出したかのように厨房に戻り、あるノートを持ってきた。

前に日本人が食べに来てね、中国語わかんないから筆談したのよ。

ほう、どれどれと開けてみると、漢字の羅列がノートの上にびっしりと。漢字の応酬でコミュニケーションは取れていた模様。

内容を追ってみると、この漢字の主は東京の大学生で、夏休み中に北京やその周囲を回っていたとのこと。

そこで、

「ここがちょっとわからないの。どういう意味かわかる?」

と私に聞いてきた部分があった。

 

その大学生君、どうも北京でお腹を壊したのだが、それでも内蒙古へ向かうと旅の続きを強行。大丈夫?と体調を心配する老板娘に対する彼の回答が

 

「我是大丈夫!」

 

彼女いわく、これが意味不明とのこと。

 

この漢字で、筆談経験のある日本人なら

「僕は大丈夫だよ!」

と言いたかったのは理解できるかもしれない。

惜しい、ホンマに惜しい!!

彼の言いたいことは、痛いほどよ〜〜くわかる。

が、残念ながら「大丈夫」は中国語では全く意味が違うのである。それまで筆談できちんとコミュニケーション出来ていただけに、最後の最後で落とし穴が待ち受けていたようだ。

 

中国語にも「大丈夫」という言葉はあるにはある。が、日本語に無理やり訳すと「男ますらお」「(君子として)立派な男」。最近の新語ふうに書くと「漢(おとこ)」というニュアンスに。それも古びた文語なので(今は「好漢(好汉)」を使うことがほとんど)、学のない人、いやそれを問わず、日本語や日本人に接したことのない中国人のほとんどは、「大丈夫」が何をいわんとしているかすら理解できないだろう。

老板娘は「大丈夫」の中国語の意味はなんとなくわかったそうですが、お腹大丈夫かい?と聞いてるのに、

てやんでい!俺は漢なんでい!

と答えたら、確かに意味不明である。

言うまでもなく私は即座に理解できたので、

私

彼は”没关系[沒關係]”(メイクアンシー)または没事(メイスー)と言いたかったんだよ

と、日本語で「大丈夫」はこういう意味で日本人の常用単語。しかし日中で意味が違う単語の一つということも伝えると、彼女はなるほどね!と納得の様子。意味がわかりかなりスッキリしたようだ。

 

中国に住んでいた頃、

「他の日本人のすなる筆談といふものを、我もしてみむとてするなり」

という『土佐日記』の紀貫之の気分で、中国語を知らないフリをして筆談をやってみたことがある。

しかし、あまりにまどろっこしく、

「ああああ!もうしゃべった方が早いわ!」

大阪人のいらち癖が出てしまったか、私の筆談デビューは10分弱で終わりを告げてしまった。

その後、

なんだ!おめー中国語話せるんじゃねーかよ!

と四面からツッコミが入ったのは言うまでもない。

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